前回の続きを。
当時は亡くなった患者様から提供を受けた皮膚をどんな方法で保存すれば良いか。
スキンバンクと呼ばれる、『皮膚の銀行』の設置が急務の時代でした。
札幌で、さくら形成外科を開業されている藤田先生が研究していたのが、牛の精子を凍結保存するのに用いていた液体窒素を用いた方法。
大規模な設備投資を必要とせず、地方病院でも実施可能な方法でした。
その保存した皮膚が、なぜか忘れ去られて、しかし日赤の職員が液体窒素を毎日足し続けて、5年もそれは続いていました。
そして重症熱傷の患者様の救命に保存された皮膚は役立ち、患者様は元気に退院されました。
大阪でかけがいのない精子の凍結保存が中止された例。
5年の月日を経て、患者様の命を救った凍結保存皮膚。
対照的ではありますが、何も医師、医療施設が善意で、そして国の税金も使って、『無償で』行われたこと。
私には、大阪の保存当事者を強く責めることは出来ません。
この5年間保存しても凍結保存皮膚が臨床応用に耐えた、という事実は、欧米の一流誌に論文として残りました。
副筆に私の名前。
そして現在東京で開業し、大塚美容外科で同じ釜の飯を食べた山本先生の名前も。
『先生、5年前の皮膚が確か残ってますよ』と呟いたのは、そう、山本先生でした。
『良きサマリア人の法』
善意で行う医療とは。
それが本当に善意と言えるのか。
我々美容形成外科医が直面する、保険医療と自由診療、交通事故などの加害者と被害者、それに関係してくる保険会社などの問題について、具体的な治療名を挙げながら、しばらく、このタイトルのままで綴っていきたいと思います。

