形成外科医として腹壁形成などの経験や、大きな腫瘍を取った経験があると、一部皮下の脂肪組織に浅筋膜と呼ばれる組織があり、そこを境にして浅い部位の脂肪の性質と深い部分の脂肪の性質が全く違うことに気付かされます。
深い層の脂肪層は脂肪細胞がモリモリとして大きな印象。そして浅い層と比べ出血が少ない。
その深層部位を、LFD、ローカルファットデポジット、直訳すると局所的脂肪沈着?、と美容外科学の中では呼ばれ、脂肪吸引手術の主役とも言える部位であることを、美容外科専門にやるようになって初めて、ビューティーコロシアムで有名な半田先生に教わりました。
LFDは女性でよく発達し、人間があまり食事に恵まれなかった時代に栄養を溜め込んでおいた器官の名残だと言われています。
また反面、その発達が女性らしい姿、特徴を表現しているとも言えます。
例えば、大腿外側からヒップにかけての膨らみは女性ならではのもので、ニューハーフと呼ばれる男性から女性への転換希望者におかれては、むしろ膨らませる希望者が多い。
ブラジルなどでは女性でもより太くしたい女性が多く、大腿用のシリコンプロテーゼまで存在します。
脂肪吸引手術においては、まずこの痕跡器官とも言えるLFDを除去するのが大きな目的となります。
LFDの存在する部位を図示してみました。
LFDは、解剖学的に見ると血管神経が乏しくという特性も有しています。
手術する側から見ると、痛みに鈍感で出血が少ない部位。
その観点から生まれた脂肪吸引手術の麻酔法がテュモセント法と呼ばれる方法で、かなりの広範囲を一度に局所麻酔で脂肪吸引することが可能です。
この方法は患者様の意識がある。でも痛がらせてはいけない。これは、手術者の高度なテクニックを必要とします。
一度に広範囲の脂肪吸引を行えるまでは、少なくとも5年以上の経験が必要。全身麻酔による脂肪吸引は、麻酔深度を深くすれば患者様が痛がらないので、誰でも出来てしまいます。
これが悪い方向に行くと、悲惨な脂肪吸引の事故へと繋がる誘因となります。
美容外科の重大事故の大多数が全身麻酔に起因している、と言っても過言ではありません。
局所麻酔で全て手術を完遂できるか、まず受診した美容外科の担当医師に聞いてみる。それでも怖ければ全身麻酔に切り替える。
脂肪吸引術の場合は、これが腕の確かな医師を見極めるコツかもしれません。

